四十年以上、胡蝶蘭と共に歩んできた私にとって、この花は単なる観葉植物ではありません。
胡蝶蘭は、まさに私の心の鏡です。
あの大学の温室実習で初めて出会った白い胡蝶蘭の清らかな姿を、今でも鮮明に覚えています。
花の姿に心を奪われ、その日から私の人生は胡蝶蘭と共に歩む道へと変わりました。

贈答品として人気の胡蝶蘭ですが、贈る側と受け取る側の双方が「困らない」胡蝶蘭選びは意外と奥が深いものです。
大輪の豪華な胡蝶蘭を贈ったつもりが、置き場所に困ったというケースも少なくありません。
また、胡蝶蘭はきちんと管理すれば何年も咲き続ける花ですが、「どう育てたらいいの?」と初心者の方が戸惑うこともあります。

この記事では、長年胡蝶蘭を育て、贈り物としての胡蝶蘭を数え切れないほど見てきた経験から、心を込めた贈り物選びのヒントをお伝えします。
胡蝶蘭を通して、人と人との心が繋がる瞬間を共有できれば嬉しいです。

胡蝶蘭はなぜ贈答に選ばれるのか

花言葉と縁起の良さ

胡蝶蘭の花言葉をご存知でしょうか?
「幸福が飛んでくる」という素晴らしい花言葉を持っています。
まるで蝶が舞うような花の姿からこの名がついたというのも、納得ですね。
その可憐な姿が幸せを舞い込ませるイメージから、胡蝶蘭は開店・開業・就任など、多くの方々に愛され繁栄する場面に選ばれることが多いのです。

また、鉢植えには「根付く」という意味もあり、「幸福が根付く」という縁起の良さも人気の理由です。
色によっても花言葉は異なり、白い胡蝶蘭は「清純」「純粋」、ピンクの胡蝶蘭は「あなたを愛します」という意味を持っています。
学名の「ファレノプシスアフロディーテ」のアフロディーテは、ギリシャ神話における愛と豊穣の女神に由来しており、ここからも「愛」の花言葉が生まれています。

このように胡蝶蘭は、見た目の美しさだけでなく、その花言葉からも贈り物として喜ばれるのです。
私自身も、人生の重要な節目には必ず胡蝶蘭を贈ります。
その美しい姿と共に「幸せが飛んできますように」という願いを込めて。

他の花にはない「長持ち」の魅力

胡蝶蘭の最大の魅力の一つは、何と言ってもその花持ちの良さでしょう。
通常のフラワーアレンジメントや花束は5日から1週間程度で枯れてしまいますが、胡蝶蘭は平均で1ヶ月から3ヶ月程度美しい状態を保ちます。
私が育てていた株の中には、適切な管理の下で4ヶ月以上も花が持続したものもありました。

また、花が終わっても株自体は長寿で、きちんと管理すれば50年近く生き続けることができます。
胡蝶蘭は、お世話を続ければ毎年お花を咲かせてくれる多年草で、園芸用の胡蝶蘭の寿命は10年以上と言われています。
一度きりの贈り物ではなく、長く楽しめる贈り物となるのです。

花の美しさを長く楽しめることに加え、水やりの頻度が少なく、お手入れが比較的簡単なことも人気の理由です。
忙しい方でも無理なく育てられる点が、贈り物としての価値を高めています。
「花は好きだけど、手入れが大変で…」という方にこそ、胡蝶蘭はおすすめなのです。

実際の贈答シーン:企業、祝い事、仏事まで

胡蝶蘭は多様な贈答シーンで活用されています。
まず企業関連では、開店祝い、開業祝い、新規オープン、就任祝い、昇進祝いなど多くの場面で見かけます。
特に開店・開業祝いには、どの内装にも合う白の胡蝶蘭や、華やかで明るい印象を与える赤白(赤リップ)やピンクの胡蝶蘭がおすすめです。

個人向けの祝い事では、誕生日や結婚祝い、新築祝い、引越し祝いなどに喜ばれます。
胡蝶蘭は花粉と香りが少ないので、飲食店や病院などのお祝いにも贈られています。
これは花粉が飛び散ることが少なく、強い香りがないため、様々な場所で飾ることができるという利点があるからです。

実は胡蝶蘭は仏事にも適しており、特に白い胡蝶蘭はお悔やみの場でも違和感なく使われます。
お悔やみの場で相応しくないお花は、「香りが強い」「色が派手過ぎる」「トゲがある」「毒を持っている」といった特徴があります。しかし胡蝶蘭はこれらに当てはまらず、特に白の胡蝶蘭はお墓や仏壇にお供えしても違和感のないお花となっています。

生花なのに長持ちし、花粉が少なく、香りも控えめで、様々なシーンに適応できる胡蝶蘭は、贈り物としてまさに理想的な花なのです。
私が40年間この花に魅了され続けてきた理由の一つでもあります。

贈って嬉しい胡蝶蘭の選び方

失敗しないための基本知識:輪数、色、鉢サイズ

胡蝶蘭を選ぶ際に知っておきたい基本知識として、まず「輪数」「色」「鉢サイズ」の3つのポイントがあります。
輪数とは、花の数のことを指します。
胡蝶蘭は1本の茎に複数の花がつきますが、その花の数が多いほど豪華に見えます。

胡蝶蘭の本数は「3本立ち」「5本立ち」などと表現されます。
お祝いごとにおける贈り物では、偶数は縁起が悪いとされ、「3本や5本など奇数」を選ぶことが推奨されています。
これは日本の文化的な側面からもきています。

色については、白、ピンク、赤リップ(白地に赤い唇弁がある)、イエローなどがあります。
「白」はお祝い胡蝶蘭の定番で、どのような場面でも安心して贈ることができ、ビジネス上でもよく利用されています。また、お悔やみの場合にもご利用いただけます。
「リップ」は白い花びらと赤い唇弁の組合せが特徴で、紅白の組合せが縁起が良いとされています。

鉢サイズは、置き場所のスペースを考慮して選ぶことが重要です。
胡蝶蘭は着生植物(木や岩などの表面に張り付くように根を張って成長する植物)であり、土壌に根を張るのではなく、木の表面などに張り付くように根を伸ばして成長します。
そのため、鉢は比較的小さめでも大丈夫です。

40年胡蝶蘭と向き合ってきた経験から言えば、初めて胡蝶蘭を贈る方には3本立ての白色大輪をお勧めします。
どんなシーンにも合い、見栄えもよく、受け取った方も育てやすいからです。

相手別に選ぶ:ビジネス・家庭・お悔やみ

相手によって、最適な胡蝶蘭は異なります。
まずビジネスシーンでは、格式を重んじる傾向があります。
大輪系は花の大きさが10~15cmほどのとても大きな花で、豪華で見栄えが良く人気があります。開業祝いや就任祝いなど主にビジネスシーンでよく贈られています。
白色の5本立て以上の大輪胡蝶蘭は、企業への贈り物として最適です。

家庭向けには、スペースを考慮することが重要です。
ミディ系は花の大きさが6~9cmほどと中大輪より一回り小さく、小ぶりの花を沢山つけます。上品さと可愛さがあり、お求めやすいお値段なので気軽な気持ちで親しい方に贈ったり、ご自分で育てて楽しむのもおすすめです。
特に小さなお子さんやペットがいるご家庭には、倒れにくい安定感のある鉢を選ぶとよいでしょう。

お悔やみの胡蝶蘭としては、白色が最も適しています。
仏事において、白は清浄を表す色とされているからです。
花の大きさは大輪でも中輪でも構いませんが、あまり派手すぎない方が好まれます。

私の経験では、相手の状況をよく考えて選ぶことが何より大切です。
豪華な花を贈りたい気持ちはわかりますが、置き場所に困るような大きすぎる胡蝶蘭は、かえって迷惑になることもあります。
相手の立場になって考えることが、真心のこもった贈り物の秘訣です。

季節とタイミングの工夫

胡蝶蘭は通年流通していますが、季節やタイミングを考慮することも大切です。
胡蝶蘭はもともと熱帯の地域に咲くお花でした。近年はバイオ技術の発展と共に生産性が増し、日本各地の生産者が温室栽培をしているので、どんな季節でも贈ることができるお花です。

しかし、受け取った側の管理のしやすさを考えると、極端な高温や低温の時期は避けた方が無難です。
胡蝶蘭を育てるのに適した温度は、夜間は18℃位、日中は25℃位がベストです。可能な限り20℃前後に保つことが理想です。
そのため、真夏や真冬に贈る場合は、特に設置場所や管理方法についてのアドバイスも添えると親切です。

また、贈るタイミングも重要です。
就任式がある場合は当日の朝に、就任式が行われない場合は就任日に届けると良いでしょう。
このように、お祝い事の内容によって最適なタイミングがあります。

私が特に注意しているのは、事前の確認です。
「胡蝶蘭を贈りたいのですが、飾る場所はありますか?」と一言確認するだけで、相手の負担を減らすことができます。
この小さな気配りが、贈り物の価値を高めるのです。

旧盆・年始・卒業入学シーズンの注意点

特別な季節における胡蝶蘭贈りには、いくつかの注意点があります。
旧盆(お盆)の時期は、日本の多くの地域で先祖を供養する期間です。
この時期に贈る場合は、白色の胡蝶蘭が適しています。
また、地域によってはお盆に花を贈ることを避ける風習もありますので、事前に確認することをお勧めします。

年始は新年のお祝いとして胡蝶蘭を贈ることも増えています。
この時期は「赤リップ」と呼ばれる紅白の胡蝶蘭が人気です。
紅白の組合せが縁起が良いお花です。
ただし、冬場は低温に弱い胡蝶蘭の管理が難しくなりますので、簡単な管理方法を記したカードを添えると喜ばれます。

卒業・入学シーズンは、新しい門出を祝う贈り物として胡蝶蘭も選ばれます。
特に入学祝いには、ピンクの胡蝶蘭が明るい印象で好まれています。
ピンク色の胡蝶蘭は「あなたを愛します」という花言葉があり、親愛の情を表すのにぴったりです。

私が40年の経験から言えることは、季節のタイミングよりも、受け取る側の環境を第一に考えることです。
冷暖房が効いた部屋で管理できるのか、日当たりはどうか、水やりの頻度を守れるかなど、相手の生活環境を想像して選ぶことが大切です。

もらって困らない胡蝶蘭とは

管理のしやすさ=贈り物としての適性

もらって困らない胡蝶蘭の第一条件は、管理のしやすさです。
胡蝶蘭は、お手入れに手間がかからないのも特徴です。直射日光の当たらない室内に置き、胡蝶蘭が植えてあるコケがパサパサになってきたら水をたっぷり与えるだけで、数ヶ月に渡って綺麗な姿を保ってくれます。

水やりの頻度は少なく、基本的には1週間から10日に1回程度で十分です。
花持ちの良さ、株の寿命の長さは胡蝶蘭の魅力です。
適切な管理をすれば、次のシーズンも花を咲かせることができ、長く楽しめる贈り物となります。

また、胡蝶蘭は他の花と比べて花粉が少なく、アレルギーの心配も少ないことも魅力です。
胡蝶蘭は外から花粉が見えない構造になっており、運んでいる時でも飾っている時でも、花粉が飛び散るようなことがありません。
香りもほとんどないため、香りに敏感な方や飲食店などでも安心して飾ることができます。

長年胡蝶蘭と暮らしてきた私からすると、この花はまさに「気遣いの花」だと感じます。
見た目は華やかなのに、飾る人に負担を強いない。
贈り物に込められた「おめでとう」の気持ちを、長く伝えてくれる花なのです。

家庭環境別の注意点(ペット、日照、スペース)

家庭環境によって、胡蝶蘭選びの注意点も変わってきます。
まず、ペットがいるご家庭への贈り物の場合は安全性を考慮する必要があります。
胡蝶蘭には毒性はまったくありません。ラン科の植物には毒性を持つものはほとんどないのです。そのために、胡蝶蘭はペットのいるご家庭でのインテリアや、贈り物としても適しています。
ただし、ペットが花や茎を食べないよう、手の届かない場所に置くことをアドバイスしておくとよいでしょう。

日照についても考慮が必要です。
胡蝶蘭は、日当たりがよい場所を好みますが、一方で直射日光が苦手です。直射日光に当たると、葉やけを起こしてしまいます。
レースのカーテン越しの柔らかな光が最適ですので、窓辺に飾る際はその点を伝えておくと良いでしょう。

スペースについては、相手の住環境を考慮することが大切です。
胡蝶蘭を贈る際は、飾る場所があるかどうかなどのリサーチが必要です。せっかく贈った胡蝶蘭が飾る場所がないことを理由に飾られなかったら双方にとって残念な結果となってしまいます。
特にマンションなど限られたスペースの場合は、コンパクトなミディ胡蝶蘭を選ぶことも一つの配慮です。

私自身、小さなアパートに住んでいた時期もありましたが、胡蝶蘭は場所を取らないよう工夫して楽しむことができました。
相手の生活環境を想像し、「この胡蝶蘭ならどこに飾るだろう」と考えることが、真心のこもった贈り物につながります。

初心者向け品種と避けたい品種

胡蝶蘭初心者の方へ贈るなら、丈夫で育てやすい品種を選ぶことをお勧めします。
一般的には、大輪の白色胡蝶蘭が最も丈夫とされています。
特に「ファレノプシス・アマビリス」系統の品種は、初心者でも育てやすいものが多いです。

ミディ系では、「リンリン」「ランラン」などの品種が比較的丈夫で、花持ちも良いとされています。
ドリテノプシス・ビューティー シーナには、「リンリン」「ランラン」「キャンディー」などの種類があります。リンリンは花の中央にあるリップにぼかしが入ります。ランランはリンリンよりもピンクの色味が薄めです。
これらの品種は、室温の変化にも比較的強いという特徴があります。

一方、初心者には避けた方が良い品種もあります。
例えば「青色」の胡蝶蘭は、染色されたものが多く、管理が難しい場合があります。
また、極端に花が大きく重い品種は、支柱の管理が必要になるため、初心者には少し手間がかかります。

40年の経験から言えることは、「おてがる」「初恋」「ホワイトエンジェル」などの名前がついた品種は、比較的初心者向けに改良されていることが多いです。
胡蝶蘭を贈る際は、品種名を確認して、相手の経験に合わせた選び方をすることも大切です。

私の先生だった「おてがるマリリン」の話

私の人生で特別な存在となった「おてがるマリリン」という胡蝶蘭について、少しお話しさせてください。
30年ほど前、私が胡蝶蘭栽培のベテランになりかけていた頃、ある育種家から「初心者でも育てられる」という触れ込みの新品種「おてがるマリリン」を譲り受けました。
名前の通り、白い花びらに赤いリップが特徴的な、とても愛らしい中輪の胡蝶蘭でした。

当時の私は「ベテラン」を自負していたため、正直なところ、初心者向けと聞いて少し侮っていました。
しかし、この「おてがるマリリン」は私の予想を裏切ってくれたのです。

夏の猛暑で私の温室の空調が故障した時、多くの株が弱ってしまう中、「おてがるマリリン」だけは驚くほど元気に花を咲かせ続けました。
また、水やりを忘れた時も、他の株よりもずっと回復力がありました。
その強さと美しさに、私は深く感銘を受けたのです。

この経験から私は、「初心者向け」と呼ばれる胡蝶蘭の素晴らしさを再認識しました。
「おてがるマリリン」は私の先生となり、強さと美しさを兼ね備えた胡蝶蘭の真の価値を教えてくれました。

贈り物として選ぶ際も、相手の経験や環境に合わせた「おてがる」品種を選ぶことで、長く胡蝶蘭との素敵な関係を築いてもらえると思います。
胡蝶蘭を通じて、花と人との心温まる関係が生まれること、それが私の願いです。

ちょっと差がつく贈り方の工夫

地元農家から直送するという選択肢

胡蝶蘭を贈る際、少し差をつけたいならば、地元の胡蝶蘭農家から直送するという選択肢もあります。
私が住む静岡県浜松市をはじめ、全国各地に優れた胡蝶蘭農家があり、直接取引することで新鮮な胡蝶蘭を贈ることができます。

地元農家のメリットは、なんといってもその鮮度です。
大手通販サイトでも胡蝶蘭は購入できますが、生産者から直接購入することで、より開花の状態が良い胡蝶蘭を選ぶことができます。
また、地元の農家ならではの、その土地に適した管理方法のアドバイスが受けられることも魅力です。

さらに、地元農家を応援するという意味でも、地産地消の観点からも素晴らしい選択と言えるでしょう。
地方によっては、その地域特有の品種や色合いの胡蝶蘭が栽培されていることもあります。

私自身、長年の栽培経験から言えることは、「生産者の顔が見える胡蝶蘭」は、その分だけ愛情が込められていると感じます。
手間暇かけて育てられた胡蝶蘭には、生産者の思いが宿るのです。
そんな思いも一緒に贈ることができるのは、大切な方への贈り物として最高の選択ではないでしょうか。

ラッピング・立て札のマナーと心配り

胡蝶蘭を贈る際、見落としがちなのがラッピングや立て札のマナーです。
胡蝶蘭を贈る場合は立て札を必ずつけるようにしましょう。開店祝いや開業祝いなどでたくさんの胡蝶蘭が届いている場合、立て札がないと誰からの贈り物なのか判断がつかないため、相手側がとても困ってしまいます。

立て札には、「祝御開店」「祝御就任」など、お祝いの内容と贈り主の名前を記載します。
企業間の贈り物の場合は社名と代表者名を、個人的な贈り物の場合は個人名を記載するのが一般的です。

ラッピングについては、胡蝶蘭の美しさを引き立てるシンプルなものが好まれます。
派手すぎるラッピングは避け、透明や淡い色のセロファンで優雅に包むことをお勧めします。
また、ラッピングは通気性を考慮したものを選ぶことが大切です。

しかし、長期間ラッピングをしたままにすると通気性が悪くなり、根腐れの原因となることもあります。
贈答用としてラッピングされた胡蝶蘭は、そのまま飾っておきたい気持ちもありますが、ラッピングを長時間付けたままにすると通気が悪くなり、根が蒸れたり病気の原因となることがあります。
贈り物と一緒に、「数日後にはラッピングを外してください」という簡単なアドバイスを添えると親切です。

40年胡蝶蘭と共に生きてきた私からすると、ラッピングよりも胡蝶蘭自体の美しさを引き立てることが最も大切だと感じます。
シンプルで上品なラッピングと、心を込めた立て札があれば、胡蝶蘭の魅力は十分に伝わるものです。

「育て方メモ」を添えて気遣いを伝える

胡蝶蘭を贈る際、さらに心配りを示すなら「育て方メモ」を添えることをお勧めします。
胡蝶蘭をもらって嬉しくても、「どう育てたらいいの?」と悩む方は少なくありません。
簡単な管理方法を記したメモがあれば、受け取った方も安心して胡蝶蘭を楽しむことができるでしょう。

育て方メモには、以下のポイントを記載すると良いでしょう:

1. 置き場所

  • レースのカーテン越しの窓辺など、明るい場所が理想的
  • 直射日光や冷暖房の風が直接当たる場所は避ける
  • 温度は18〜25℃が適温

2. 水やり

  • 基本的には7〜10日に1回
  • 夏場は5〜7日に1回
  • 鉢の中の水苔やバークチップの表面が乾いてから与える
  • 受け皿に水が溜まったら必ず捨てる

3. お花が終わった後の管理

  • 花が全て落ちたら花茎を根元から切る
  • その後も普通に水やりを続ければ、翌年また花が咲くことも

こうした基本的な情報に加えて、「何かあればいつでもご相談ください」という一言を添えると、さらに気遣いが伝わります。
私は長年、胡蝶蘭を贈った方からの質問に答えてきましたが、その一つ一つの会話が人と人との繋がりを深めてくれました。

胡蝶蘭を通して、贈る人と受け取る人の心が通い合う。
それこそが、胡蝶蘭が持つ最大の魅力なのかもしれません。

胡蝶蘭を通して伝える心

贈ることは寄り添うこと

私は長年胡蝶蘭を育ててきて、一つの大切な気づきを得ました。
それは「胡蝶蘭を贈ることは、相手に寄り添うこと」だということです。
胡蝶蘭は短期間の訪問者ではなく、長く家に寄り添い続ける存在となります。

胡蝶蘭を選ぶ時、私たちは無意識のうちに相手の生活環境や好みを想像しています。
「この色は好きかな?」「置く場所はあるだろうか?」「管理は難しくないだろうか?」
そんな思いやりの気持ちが、胡蝶蘭選びには込められているのです。

また、胡蝶蘭は長く花が持続するため、贈り主の祝福の気持ちを長く伝え続けます。
お祝いの日から数か月後も美しい花を咲かせる胡蝶蘭は、「ずっとあなたの幸せを願っています」という気持ちの象徴なのです。

私が農業会社で胡蝶蘭の栽培責任者をしていた頃、法人向けの胡蝶蘭を年間数千鉢扱っていました。
その中で印象に残っているのは、「毎年同じ会社に贈る胡蝶蘭は、前年よりも少し大きく、少し立派に」というある取引先の言葉です。
これは「年々深まる関係性」を胡蝶蘭で表現するという、素敵な心遣いでした。

胡蝶蘭を通して伝える心は、形ではなく思いやりの深さなのだと、私はそう考えています。

胡蝶蘭に教わった「間」の大切さ

胡蝶蘭と共に過ごした40年の間に、この花から多くのことを学びました。
その中でも特に心に残っているのは「間(ま)」の大切さです。

胡蝶蘭の花は、茎に一定の間隔で美しく並びます。
花は平らに開き、弁質は薄いものから厚いものまであります。
その一輪一輪が、互いを引き立て合うように適切な「間」を保って咲いています。

この「間」があるからこそ、胡蝶蘭全体の美しさが際立ちます。
花と花の間に空間があることで、一輪一輪の美しさが引き立つのです。
これは人間関係にも通じることだと気づきました。

人と人の間にも適切な「間」があることで、お互いを尊重し、より良い関係が築けるのではないでしょうか。
胡蝶蘭の花が互いに重なり合わず、一定の距離を保ちながらも美しい調和を生み出すように。

また、胡蝶蘭の水やりも「間」が大切です。
胡蝶蘭の水の量は気温に合わせて調整すると良い。
毎日ではなく、7〜10日に一度という「間」を空けることで、根が健康に育ちます。
これは人間関係においても、常に密着するのではなく、適度な距離感を保つことの大切さを教えてくれているようです。

胡蝶蘭から教わった「間」の美学は、私の人生観にも大きな影響を与えています。
花を贈る時も、相手との関係性における「間」をしっかりと考えることが、心のこもった贈り物につながるのだと思います。

これから胡蝶蘭とどう付き合っていくか

胡蝶蘭との付き合い方は、人それぞれです。
贈り物としてもらった胡蝶蘭を一度限りの楽しみとすることもできますし、長く育てて毎年花を咲かせる喜びを味わうこともできます。

私は、胡蝶蘭を「育てる花」ではなく「寄り添う花」だと考えています。
胡蝶蘭の適切な置き場所について説明していて私がいつも思うのは、乾燥しておらず風通しもよく、20℃〜25℃の、若干の日当たりのある環境と言えば、「人間が心地よい環境とほぼ大差ない」ということです。
人間が心地よいと感じる環境は、胡蝶蘭にとっても心地よい環境なのです。

これからも胡蝶蘭と付き合っていくなら、この花を「共に暮らす仲間」として見守ってみてはいかがでしょうか。
毎日観察し、水を与え、時には言葉をかけながら、花の変化を楽しむのです。

人生の喜びや悲しみを共有してきた胡蝶蘭は、時として人以上に深く私の心を理解してくれたと感じることもあります。
その静かな佇まいに心癒され、美しい花に励まされた日々は、私の宝物です。

胡蝶蘭との付き合い方に正解はありません。
ただ、この花と共に過ごす時間が、あなたの人生をより豊かなものにしてくれると私は信じています。
胡蝶蘭という素晴らしい「友」との出会いが、あなたにとっても特別なものになりますように。

まとめ

胡蝶蘭は単なる贈り物ではなく、思いやりの表れです。
相手の環境や好みを考え、適切な品種・サイズ・色を選ぶことで、贈る相手に喜ばれ、かつ負担にならない素敵な胡蝶蘭を贈ることができます。

40年以上胡蝶蘭と共に歩んできた私にとって、この花は「心の鏡」です。
育てる人の心遣いや生活リズムが、胡蝶蘭の姿に如実に現れるからです。
日々の小さな気遣いが、胡蝶蘭の美しい花となって返ってくる、そんな不思議な関係性を持った花なのです。

最後に皆さんへお伝えしたいこと。
胡蝶蘭に関する知識はもちろん大切ですが、何より大切なのは「贈る相手を思う気持ち」です。
その真心が込められた胡蝶蘭は、受け取った方の心に必ず届くでしょう。

一鉢の胡蝶蘭から始まる素敵な関係が、あなたの周りにも広がりますように。
そして胡蝶蘭の花言葉のように、「幸福が飛んでくる」日々が訪れますように。